<< 少しずつ広がる世界 手に負えな... アルマジロの絵日記には、真っ赤... >>

あの海のこと あの頃のこと

「そらまめ」

メニューを見ながら注文すると、焼くか煮るかと問われる。僕はちらりと隣の席を見て、焼くようにと店員に向かってはにかんだ。店内には僕ら以外に2、3人の客。もともとカウンターしかない店だ。僕は今更になって、この間彼女が連れて行ってくれた店とは比べ物にならないことに申し訳なさを覚えた。もう一度彼女を盗み見る。彼女はこの店がどうかなんてとんと興味がない様子で、カウンターに並ぶクジラの小さな置物をころころと転がして遊んでいる。

まさかもう一度会えるなんて思ってもみなかった。彼女は猫だ。相変わらず多忙な日常を送っており、もはや休みも土日じゃないらしい。それでも濃い栗色の毛は相変わらず艶やかだったし、白い靴は美しく磨かれていた。目紛しく変わる彼女の日常とは裏腹に、僕は相変わらずはっきりしない毎日を送っている。だから、こんな僕がまた彼女に会えるだなんて、思ってもみなかったし、正直驚いた。

僕らは何でもない話をした。最近読んだ本の話。映画の話。昔助けてくれた上司を好きになったり、世界で一冊の本を取り合ったり、貴族がスープを飲んだり、そんな話。僕が話している間、彼女はビールを飲んでいたし、彼女が話している間、僕は空豆を食べていた。
それでも時々彼女の目は光り、核心を突くタイミングを狙っている。僕だってそれに気付いていた。そして、いよいよその目に負けた僕は、まとまってもいない夢の話をすることになってしまった。彼女は満足げにしっぽを2回振り、僕の話に耳を傾けた。僕はきっと、こんな彼女の態度に救われているんだと思う。僕がゆっくりと言葉を選んで紡ぐ説明に対して、率直に口にされる「どうして」に僕は必ず答えらることができない。答えられないから考える。考えていたって所詮僕の頭で考えられることなんてたかが知れているんだけれど、彼女はそこにそっとヒントをくれる。やっぱりできる猫は違うなぁと僕は安直に感心する。そして嬉しい気持ちになる。勝手だな。でもそれが僕の正直なところなのだ。

そんな彼女へのお礼のつもりで、本を3冊貸してみる。僕が楽しいと思うものを、彼女も楽しいと思ってくれれば良いのだけれど。

店を出た途端に僕らを撫でた夜風はまだまだぬるかった。彼女にさよならをしたあと僕はまた面倒なことに巻き込まれに行かなくちゃいけない。だから、駅までの道は、せめて、ゆっくりと。

2011年07月14日



「仕事やめた」と聞き、彼女と再会する。
湿った生温かい空気が全身にまとわりついて
一歩前に進むのも億劫な夜の吉祥寺。
週末の夜ということもあり、街はいつも以上に賑わってる。

彼女との再会を果たした私は
彼女のいきつけという地下の店に入るなり
注文をするのも忘れて彼女を質問攻めにする。

困った様にする彼女にはっとした私は
話題をメニューを何にするかに切り替えて一度間をとる。

それからしばらく最近読んだ本の話やお気に入りの映画の話し
などしながら出そろったメニューを箸でつつきながら時間を過ごす。

束の間、意を決したように彼女は静かに自分の夢について語り出す。

自分が大好きな人たち同士を巡り合わせて
自分の大好きな人たちにもっと幸せになって欲しい。
そんに手助けがしたい。
はにかんだ様にしながらも、目を輝かせて語る彼女に
素直に私は、素敵な夢だなと思うが、何も言わない。

でも、それだけではメシは食っていけないけどっ

と照れ隠しのように誤魔化す彼女に私は
そんなことには全く興味がないくせにと
思うが、また口には出さない。

自分にも、何か彼女の役に立てることはないかと
何か言おうと逡巡する私に、それに気づいてかどうか
彼女は、彼女の大好きな本を三冊私に手渡す。

彼女の趣向を少しでも共有することができることに
柔らかな喜びを感じた私は、
まずは、この本を読むことから始めよう。
そして、この本の感想をああでもない、こうでもないと
また彼女と話しをする機会が来ることを
そっと待とうと思い、また何も言わないという選択をする。

そろそろ帰ろうか、と言う彼女に従って
店を出る。

湿った空気は、先程よりも一層力強く私の首元から
入り込んでくる。
それも心地よいなと感じていることに気付いた私は
再び、何も言わないという選択をして彼女と別れる。

週末の下り電車は、人ごみで溢れている。
この人たちにも、もっと幸せになって欲しいな
なんて一瞬考えて、それは流石におこがましいなと
下を向いた。

2011年07月18日
[PR]
by mowmowmocha | 2011-07-14 11:30 | 木曜日
<< 少しずつ広がる世界 手に負えな... アルマジロの絵日記には、真っ赤... >>